エネルギー事業

インタビュー

先生が起業された1960年代は、どのような時代だったのでしょうか?

毎日新聞社提供

エネルギーの問題でいえばオイルショックが起き、国も慌てて大問題になりました。私のところにも住宅の省エネをどうしたらよいかという相談を受けることが多くなっていたのですが、ビジネスとしてはなかなか成り立たなかった時代です。役所も私たちも手探りだったと言えるでしょう。

当時から現在までをお知りの中上先生から見て、日本の省エネはどのように変わってきたのでしょうか?

第二次オイルショックがあり、国も省エネへ本腰を入れはじめました。ただ住宅にはまだ冷暖房も普及していなかった。省エネは今とは違う概念でした。例えば当時、北海道では冬の暖房の石炭が必要。私たちの研究所にも石炭の確保について相談が来ていた、そんな時代です。しかし地球温暖化という問題が生まれ、省エネは社会的に大きなテーマとなってきました。かつては節約、我慢といったネガティブなイメージを持った省エネも、今では地球環境を守るというポジティブなテーマ。全消費者、全社会に つながる、すべての人が当事者である課題となってきたのです。

これからの省エネの可能性をどのように考えていらっしゃいますか?

先日マニラに行ってきました。ホテルのなかは寒いくらいに冷房が効いているのですが、外気温は35度。まわりを見渡せば白熱灯もいっぱいある。世界という視点で見れば、省エネには終わりがありません。欧米では発電所を作るコストよりも省エネにかけるコストのほうがトータルで得になるという考え方があります。さまざまな規制もあり、そうした政策は日本では実現しなかった。しかし今、いよいよエネルギーの自由化の時代を迎えて、新しいソリューション、ダイナミックなビジネスが生れる時だと思います。

省エネについて、いま重要なキーワードとはなんでしょうか?

「IoT」と言ったキーワードはとても重要です。IoTと言うとたくさんのデータが集まるイメージですが、データだけがあっても駄目なのです。それをどのように分析・解析するか、そしてそこに付加価値を付けていくことがソリューションです。UBER(ウーバー)を知っていますか。インターネットを駆使した配車サービスなのですが、運転手はもちろん、お客さんひとりひとりについても評価という形でデータが収集されています。またAirbnb(エアビーアンドビー)では、宿泊施設について同様なビジネスモデルが展開されています。一方エネルギーの分野は、こうした視点では最も遅れていると言われています。本来は各家庭すべてにつながっているはずなのに、そのデータを活かすことができていない。いつかグーグル、オラクルなどまったく違う業種の企業が、エネルギー分野へサービスを提供する可能性があると思っています。

世界に眼を向けると、アメリカがパリ協定を離脱することとなりました。

アメリカについては、いつか反動が来ると思っています。地球温暖化といわれますが、そうではなく気候変動と捉えるべき問題です。そういう意味で、今後も省エネは最大の課題であり続けるはずです。これからの省エネは、一気に20%も節約できるということは不可能です。砂取りゲームのように、後半は少しずつ取っていくしかない。省エネ先進国であるということはそういうことだと思います。1%ずつ行う省エネ。そこにこそビジネスチャンスがあるのではないでしょうか?

最後に若いエンジニアに、今後注視していくヒントを教えていただけないでしょうか?

「常に好奇心を持って、視野を広く進んでいくことです。一つのことだけに注意を払うのではなく、社会に広く目を向けることが大切です。私は最近、ビットコインで排出権取引ができないか、そんなアイデアなどを考えています。ビットコインは経済の領域だから関係ないなどと思わないことです。社会が絶えず変化して行くように省エネにも限りない可能性があります。その可能性を若いエンジニアには担ってほしいと思います。」

日本において、目立つ省エネはもう少ないと伺いました。目立たない、少しずつの省エネを行っていく段階に差し掛かっています。これからは各個人が省エネに向けて手を動かさなければなりません。“我慢をして省エネ”では続かないかもしれませんが、見える化によって具体的な金額を意識したり、実行可能な削減プランを提示しプラン通りに削減が可能であったならば、何かしらのメリットがあったり等、“ポジティブな気持ちで行える省エネ”を広げていければと共感しました。特に中上先生が仰っていた省エネに対してネガティブなイメージを持っておられる方にも意識改革が出来る世の中にしていきたいと思います。