対談記事

長尾社長 × 笹谷氏対談

CSR/SDGsコンサルタント 笹谷秀光氏 × 代表取締役社長 長尾克己

東テクグループがSDGs経営で目指す“ここちよい”のその先

東テクグループでは、「SDGs(持続可能な開発目標)」への取り組みを経営課題として位置付け、自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し、東テクグループが社会に提供できることとして価値創造ストーリーを整理しています。 SDGs経営に向き合い始めて1年の成果と、東テクグループにとっての今後の課題や、目指す姿などについて、CSR/SDGsコンサルタントの笹谷秀光氏と当社代表取締役社長 長尾克己が意見を交わしました。

※本記事の役職、内容は取材当時のものです。

SDGsへの取り組みが企業を成長させる

長尾
東テクグループでは、2019年度に策定した長期ビジョンの要にSDGsを据え、2020年度からの長期目標、売上目標を達成させたいと考えました。 そもそもSDGsへの取り組みを始めたのは、「持続可能な社会への貢献」が社会的キーワードとなる中、SDGsの普及、浸透を肌で感じたからです。お取引先の皆様とのやりとりにおいても刺激されました。また、ESG投資もきっかけになっています。
笹谷
素晴らしいお考えですね。近年、SDGs経営の動きがさらに加速しています。 2019年度からSDGsへ取り組みはじめている東テクグループは、日本国内においては、まだまだ先駆者と言えるでしょう。東テクグループの主要取引先の多くは、社長から営業セクションに至るまでSDGsを発信しており、そのような企業同士で手を結ばれたチームは、お互いの相乗効果によりさらなる優位性を生むはずです。 東テクグループはお客様の状況を、一方メーカーは製品開発のことをよく知っています。社会課題を捉えて製品を紹介することで、営業におけるSDGs会話ができるようになります。 今回、事前にお話しをお伺い(※)している中で、東テクグループのビジネスモデルはよく磨き上げられていると感じました。社会の課題を認識し、それを解決するために技術力、開発力を結実させ、解決方法を提案するカルチャーができている。「相手の困っていることを解決しよう」というマインドがあります。つまり、東テクグループにはもともとSDGs的な取り組みが存在していたと言えます。 ※ 重要課題を策定する過程の中で、外部有識者からのご意見として、笹谷氏との間でダイアログを開催しました。

SDGsと業務の紐付けが重要

長尾
SDGsによって事業を通じた社会への貢献の必要性を身にしみて感じ、あらためて当社グループの事業、歴史の見直しを始めています。今回策定した重要課題は、2030年までの長期にわたり活動を進める軸として推進します。
笹谷
業務を整理して、SDGsの17ゴールや169のターゲットと紐付けることが重要だと考えています。たとえばエネルギー部門であれば目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、人事・総務部門であれば目標8「働きがいも 経済成長も」、また、東テクグループの場合はBtoB企業として取引先とコラボしていますので全社員が目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」に関連しているといえます。自分の業務はどのゴールに関連しているか考える意識が大事です。 また、東テクグループの重要課題はESG投資家に訴えかけるものになっていますね。 重要課題を策定するにあたり用意された「ESG/SDGsマトリックス」では、ESGとSDGsとの関係をマトリックスの形で整理しています。自社の事業のESGの各項目がどのSDGsに関わるのか、明記されています。これによって、関係性が網羅的にチェックでき、東テクグループにとって何が大切なのかが見えてきたはずです。その結果、「ここちよい」という東テクグループらしいキーワードを軸にした「地球」「社会」「人」の3つに、「ガバナンス」を加えた重要課題を策定しています。 このようにSDGsを軸に定めた重要課題によって、東テクグループの活動が世界課題とリンクし、経営陣が力点を置く部分が明らかになっています。「地球」にも「社会」にも「人」にも良いコンテンツがたくさんある。これらは最先端のSDGsと言える項目です。
長尾
なるほど。私はSDGsやESG経営のためには専任の組織が必要と考え、2020年度に広報室を新設しました。2021年度からは社長直下組織として再編し、SDGsを含め、当社グループのブランディング強化をより強力に推進したいと考えています。
笹谷
社長の直下にSDGs経営を司る部門があるのは非常にいいことです。経営者の考えを社内に浸透させられる一方で、様々な情報を社内から得られるようになります。 また、投資家もESGではSDGsを関連付けていますので、ESGに対しSDGsを使った発信をすると、投資家にも、ほかの関係者にも訴求しやすくなり、手応えが違うはずです。つまり、昨今は投資家が企業の活動をチェックするときに、ESGの項目をSDGsと紐付けて見ています。その結果、企業の取り組みに納得した投資家からの投資につながるので、社長が考えておられる投資家向けのブランディングにもまさしく合致します。 東テクグループの場合は、さらに外部評価を客観化にすることをお薦めします。例えば各種の表彰制度や行政関係の賞にエントリーをし、自社の優れた点を明らかにするのが良いでしょう。

社内へのSDGs浸透には社内表彰・提案制度が有効

長尾
SDGsの社内への周知方法として、毎月行う朝礼で取り上げたり、グループ報でも連載企画で紹介したりするなど、定期的な啓発を行っています。選抜メンバーによるワークショップも開催し、全グループ社員が受講しているコンプライアンス研修とあわせて、勉強会も行っています。その成果として、社員の認識が少しずつ深まってきたのを感じています。
笹谷
私は、社員の皆様の本業が17ゴールのどこに該当するか思い巡らせていき、自分の業務はどのゴールに関連しているか考える意識が大事だと思います。 それにより、SDGs目線で物事を考えるようになります。例えばプラスチックの過度の使用は目標12「つくる責任つかう責任」に反するから抑制しよう、会議に女性が参加してないのは目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の点で大丈夫か、などの問題意識が生まれます。SDGs目線で見るとマインドが変わり、提案に結び付けようというアクションにつながります。 また、社内へのSDGs浸透を図るとともに、モチベーションを向上するためには、社内表彰制度という方法が有効です。SDGsの企画を募集し、コンペ形式で良案を表彰する。SDGsで成功している企業では、社内提案・表彰制度を上手に活用している傾向があります。 さらに、社外に事例発表の機会を持つと良いです。発信のためには統合報告書を作るとワンボイスで伝えるためのツールになります。統合報告書には社長のトップメッセージが入り、各部署の役割も明確化され、「当社はこういう企業なのだ」という全体整理にも役立ちます。これを社員が勉強し発信すると貴社の取り組みをワンボイス化することができます。
長尾
統合報告書によるワンボイス化は効果が表れそうな方法ですね。 近年、東テクグループで取り扱う新商品にはSDGsの思想をキーワードにしたものも増えてきています。電気自動車向けの充電スタンドは、蓄電池と再生可能エネルギーである太陽光発電を組み合わせたもので、災害時に電気の供給ができ、複数の観点でSDGsに貢献できます。 また、当社グループでは冷媒であるフロン回収も事業のひとつです。これらの適切な実施は、環境負荷削減に直接つながるので、取り組みをより一層強化します。 いずれもビジネスチャンスが広がっている事例なので、良い機運をとらえたいと考えています。
笹谷
充電スタンドなどは、東テクグループの重要課題としてSDGsの目標13「気候変動」や目標7「クリーンエネルギー」と照らし合わせることで、その取り組みのプライオリティーの高さが見えてきます。それを発信するときにSDGsを使うと社会に伝わりやすく、評価向上にもつながります。

SDGsでエンドユーザーとの関係を深め、人材も確保

長尾
当社の強みと課題をお話しします。強みは、ゼネコン・サブコンはもちろん、施主やデベロッパーと強い協力関係が構築できている点です。また、当社グループは現在1万超の保守物件があり、これらは建物を使用・管理しているエンドユーザーとの間の直接契約です。これ以外にも年間約5万件のエンドユーザーとつながるチャンスがあります。 つまり、エンドユーザーの声を直接聞き、そして提案することができる環境にあるのです。SDGsや社会課題への解決に対する要請はエンドユーザーの声なので、SDGsへの取り組みは、そのまま当社の優位性を活かす取り組みでもあると思っています。今後はエンドユーザー向けに省エネ、設備診断も含めて取引を増やしていきたいと考えています。 一方、課題は人材です。人手の確保が必要ですし、同時に社員に対する諸々の学習、学びに力を入れなくてはいけない。また優秀な学生はSDGsを勉強しているので、優秀な人材を得て、離職率を下げるためにもSDGsが有効だと感じます。
笹谷
実際、SDGsに取り組む会社には優秀な人材が集まり、離職率も少ないです。今の優秀な学生たちは「SDGsを語れない会社には、入社する価値がない」と言う人が増えています。東テクグループがより深くSDGsを発信すれば、人材採用でも優位に立てるでしょう。 また、東テクグループがSDGsへの取り組みを深めると、取引先とさらに強い関係が生まれ、さらにはエンドユーザーにも訴求できます。

挑戦文化でポストコロナ時代に躍進を

長尾
当社は空調・計装・エネルギーという3つの柱を持っていますが、これからの成長を一番期待できるのがエネルギー事業部門です。そして、同部門が中心になって取り組む新ビジネスへの挑戦という社内の機運をより高める必要があると考えています。 そこで「挑戦文化」を大切にしようと繰り返し伝えています。このVUCAの時代、前例にとらわれず、新しいことへの挑戦が必要不可欠なので、社員一人ひとりが力強く挑戦できる組織にしたいとの想いがあります。先ほどお話しが出た社内表彰制度は挑戦のためにもいいアイデアなので、ぜひ始めたいですね。
笹谷
ご承知の通り、SDGsは未来志向と変革志向でできた2015年の国連文書「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」に盛り込まれました。したがって貴グループの「挑戦文化」はSDGsと親和性が強いです。 また17の目標と169のターゲットは、チャンスリストである一方で、リスク管理リストでもあります。社員は自分の業務を項目に当てはめると、業務の社会的な位置付けがわかりそれに愛着が生まれ、より良き提案にも結びつきます。 さらに、BtoBからBtoCへの展開には社員の「世間話」の力量を上げる必要があります。商品を売らんかなではなく、世界的視野でSDGsを使った世間話ができれば、営業力アップにもつながります。 最後に、業界のリーディングカンパニーとしての東テクグループへの期待を申し上げます。ポストコロナでライフスタイルやエンドユーザーのマインドが激変している時代に、東テクグループは様々な社会課題の解決策をお持ちなので、それをSDGsと絡めて丁寧に説明し、関係者に訴求することが重要です。 SDGsで社会に対する感度を磨き、重要課題とSDGsの関係を理解し、全社員で推進すれば、ポストコロナに向けて優位性を発揮できます。 そのためには会社の「パーパス」(想い)をSDGsと絡めて形にしていくことです。貴社の「ここちよい」というパーパスはとてもSDGsの17目標では語りきれないものです。17目標は国連の193か国の合意でできたいわば「規定演技」です。そこで、貴社としては、「ここちよい」という高い価値目標をいわば貴社独自の自由演技として発信する。私は、これを「18番目の目標」といっています。これが自主的取り組みを推奨するSDGsの使い方です。それを設定し、その想いを実現するビジネスモデルをストーリー化して発信する。それができると企業価値の向上と急成長につながります。
長尾
ご提言恐れ入ります。ご期待に応えられるように進めたいと思います。当社の強みを研鑽し、脱炭素社会の実現に向けて当社の技術を通じ社会に貢献することで、唯一の価値を提供できるオンリーワンの会社にしてまいります。本日はありがとうございました。

笹谷 秀光(ささや ひでみつ)氏

CSR/SDGsコンサルタント

東京大学法学部卒業。1977年農林省(現農林水産省)入省。環境省大臣官房審議官、農林水産省大臣官房審議官、関東森林管理局長などを経て、2008年退官。同年株式会社伊藤園入社。2019年まで取締役・常務執行役員などの立場で同社のCSR推進を担当。2020年4月より千葉商科大学基盤教育機構教授。博士(政策研究)。主な著書に「CSR新時代の競争戦略-ISO26000活用術」(日本評論社・2013年)、「Q&A SDGs経営」(日本経済新聞出版・2019年)、「3ステップで学ぶ 自治体SDGs 全3巻セット」(ぎょうせい・2020年)など。社内浸透用の通信教育講座「未来につなぐSDGs 入門」を執筆(JTEX 職業訓練法人日本技能教育開発センター)。笹谷秀光公式サイト(https://csrsdg.com/

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